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東京地方裁判所 平成2年(ワ)3979号 判決

原告

梓静枝

被告

田村洋子

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自二五四万八九八〇円及びこれに対する昭和六二年一二月一一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自二一〇九万九五七三円及びこれに対する昭和六二年一二月一一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  本件事故の発生

被告田村洋子(以下「被告洋子」という。)は、昭和六二年一二月一〇日午前一〇時五五分ころ、被告田村宏三(以下「被告宏三」という。)所有の普通乗用自動車(所沢五五ろ五二〇四、以下「被告車」という。)を運転し、埼玉県入間市小谷田一丁目九三五番地先の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)を、宮寺方面から上藤沢方面へ向けて右折した際、左方向から上藤沢方面へ向けて直進していた原告運転の普通乗用自動車(所沢五〇あ一八七、以下「原告車」という。)と被告車とが衝突したため、原告車は進行方向右前方に進行して反対車線の電柱に衝突し、この衝突により原告車は再び道路中央部付近に戻つて停止した。

原告は右衝突により傷害を負つた。

二  責任原因

1  被告洋子は、本件交差点を右折する際、一時停止の道路標識が設置され、左方の見通しが約一〇〇メートルしかきかないので、同交差点で一時停止し、左右道路の安全を確認する義務があつたのに、同交差点で一時停止したものの左方道路の安全を確認することなく、漫然時速約一五キロメートルで右折進行した過失により、本件事故を起こしたから、民法七〇九条にもとづき原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告宏三は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供する者であるから、自賠法三条にもとづき原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1  治療費 二四七万四一七五円

原告は、本件事故で頭部打撲、頸部捻挫、右肘打撲、腰部捻挫等の傷害を負い、昭和六二年一二月一〇日から同月一四日まで豊岡第一病院に通院して治療を受け、同月一五日から昭和六三年四月一二日までの一二〇日間同病院に入院して治療を受け、退院後も平成元年一月二四日までの間同病院に通院して治療を受けた。

右治療により、治療費二四七万四一七五円を要した。

2  入院雑費 一二万円

一日当たり一〇〇〇円、一二〇日分の一二万円である。

3  通院交通費 三〇万一九〇〇円

原告は、昭和六三年四月一二日豊岡第一病院を退院後の通院にタクシーを利用し、また、原告の家族が原告の見舞いに行くときも交通が不便なためタクシーを利用したため、通院交通費として三〇万一九〇〇円を要した。

4  渡航費 三八万七九〇〇円

原告の夫は、本件事故当時、台湾で仕事に従事していたが、原告が本件事故により重篤状態に陥つたため、昭和六二年一二月一七日急遽帰国し、昭和六三年二月一日台湾に戻つた。

また、原告の夫は、本件事故の損害賠償の交渉のため、仕事を中断して、再び昭和六三年二月二〇日帰国し、諸手続きと保険会社との交渉を行つた。さらに、原告の退院後の昭和六三年四月二三日右同様の理由で帰国した。

以上の渡航費は、当時のエコノミークラスで一往復一二万九三〇〇円であるから、合計三八万七九〇〇円となる。

5  電話代 五万円

本件事故及びその後の経緯、原告は当初生命にも危険があつた状態であり、その症状を知らせるため、また、夫から症状を知るため、日本と台湾との間で電話をする必要があり、電話代は少なくとも五万円である。

6  休業損害 五〇六万六八五〇円

原告は、本件事故当時、平日は第一生命保険相互会社(以下「第一生命保険」という。)の外務員をし、理容師の資格を有するので土曜・日曜・祝祭日は理髪店メンズヘアーサロン満井(以下「ヘアーサロン満井」という。)に勤め、その他の時間は銀河電子工業株式会社(以下「銀河電子工業」という。)の経理及び一般事務の仕事を行つていた。

その各年収は、第一生命保険が一二一万六九四四円、ヘアーサロン満井が一九八万四〇〇〇円、銀河電子工業が一八〇万円である。

原告は、本件事故による傷害で立つて作業をすることができなくなり、退院後二か月間は一〇〇パーセント仕事に就くことができず、その後症状固定日である平成元年一月二四日までは五〇パーセント仕事に就くことができなかつたから、その休業損害は五〇六万六八五〇円である。

7  逸失利益 一三五一万五五二六円

原告は、本件事故による後遺障害により立つて作業をすることができなくなり、理髪業に従事することが全くできなくなり、また、生命保険の外務員の外回りの仕事も困難になり、少なくとも症状固定日から一〇年間は労働能力の三五パーセントを喪失したものであるから、前記年収合計五〇〇万〇九四四円を基礎に、ライプニツツ方式、係数七・七二一七で逸失利益の現価を算定すると一三五一万五五二六円である。

8  慰謝料 六六二万円

(一) 入通院慰謝料 二二二万円

(二) 後遺障害慰謝料 四四〇万円

9  弁護士費用 一五〇万円

四  よつて、原告は、前記損害額合計三〇〇三万六三五一円の内金二一〇九万九五七三円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六二年一二月一一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する認否

一  請求の原因一項は認める。

二  同二項については、1は被告洋子が左方の道路の安全を確認することなくとの点を否認し、その余は認め、2は認める。

三  同三項については、1治療費は争い、2入院雑費は争い、3通院交通費は認め、4渡航費は否認ないし争い、5電話代は争い、6休業損害は第一生命及びヘアーサロンの金額を争い、銀河電子の金額を否認ないし争い、7逸失利益は争い、8慰謝料は争い、9弁護士費用は知らない。

四  同四項は争う。

第四抗弁

一  本件事故は、原告車と被告車との出合頭の事故で原告にも過失があるから、少なくとも二割の過失相殺をすべきである。

二  被告らは、原告に対し、損害賠償として四六七万七七六〇円を支払つた。

第五抗弁に対する認否

抗弁一は争い、二は認める。

第六証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  本件事故の発生及び責任原因

請求の原因一項は当事者間に争いはない。請求の原因二項の1については、被告洋子が左方道路の安全を確認することなくとの点を除いて当事者間に争いはないところ、成立に争いのない甲第一号証ないし甲第三号証、甲第四号証の一ないし一六、甲第五号証、甲第六号証によれば、被告洋子は、本件交差点を宮寺方面から上藤沢方面へ向けて右折するに際し、同交差点の入り口に一時停止の標識及び停止線が設けられていて、左方の野田方面からの道路は、国道一六号線との立体交差のため緩やかに地下に下がつていて見通しは不良であるが、右停止線付近では左方約一〇〇メートルまでの視認はできるのであるから、一時停止のうえ左右道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるところ、右停止線付近で一時停止し、左右に顔を向けたものの原告車の存在に気付かず、そのまま発進して同交差点に進入し、衝突してはじめて原告車の存在に気付いたということが認められ、被告洋子は左方道路の安全を確認する注意義務を怠つた過失により本件事故を引き起こしたものと認められる。また、請求の原因二項の2については、被告宏三が、被告車を所有し、自己のために運行の用に供している者であることについて当事者間に争いはない。

したがつて、被告洋子は民法七〇九条にもとづき、被告宏三は自賠法三条にもとづき、原告が本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  損害

1  治療費 二四七万四一七五円

成立に争いのない甲第七号証、甲第一三号証、甲第一四号証、甲第一五号証の一、二、甲第三九号証、甲第四〇号証、乙第一号証の一ないし八一、原告本人尋問(第一回、第二回)の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により頭部打撲、頸部捻挫、右肘打撲、腰部捻挫等の傷害を負い、豊岡第一病院(埼玉県入間市豊岡五丁目二番二二号)で昭和六二年一二月一〇日から同月一四日まで通院して治療を受け(通院実日数四日)、同月一五日から昭和六三年四月一二日までの一二〇日間入院して治療を受け、その後症状固定した平成元年一月二四日まで通院して治療を受け(通院実日数一四九日)、その治療費として二四七万四一七五円を要したことが認められる。

2  入院雑費 一二万円

前記のとおり原告は、本件事故による傷害の治療のため、豊岡第一病院に昭和六二年一二月一五日から昭和六三年四月一二日までの一二〇日間入院して治療を受けたが、その入院期間中に諸雑費を必要としたことが認められるところ、原告の負つた傷害の内容、程度等からして、一日当たり一〇〇〇円、一二〇日分の一二万円の入院雑費を要したものとするのが相当である。

3  通院交通費 三〇万一九〇〇円

当事者間に争いがない。

4  渡航費 〇円

原告は、原告の夫が台湾から帰国するのに要した渡航費三八万七九〇〇円を主張する。

原告の前記傷害の内容、程度等からして、原告が重篤状態にあつたため原告の夫が急遽帰国する必要があつたとは客観的に認めがたく、損害賠償請求交渉のための帰国も、夫が帰国してなさねばならないものとは認められない。また、妻の受傷を心配して夫が見舞いのため帰国したとしても、右傷害の内容、程度の場合に、全額を被告らに負担させるのは相当ではなく、原告の入院が家庭生活に及ぼした影響の一要素として、入院慰謝料として考慮すれば足りるから、右渡航費を独立の損害項目として評価するのは相当ではないので、原告の右主張は採用しない。

5  電話代 二万三八八〇円

原告本人尋問(第一回、第二回)の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、台湾の夫に本件事故による受傷等を連絡するため国際電話をかけたことが認められるところ、本件事故と相当因果関係あるものは事故による受傷の件につき一回、入院の件につき一回、退院の件につき一回、その間の症状等の経緯につき三回の合計六回、各二〇分を要したものとするのが相当であるから、一分まで六秒ごとに四八円、一分を越えて六秒ごとに二五円として算定すると、電話代として二万三八八〇円が認められる。

6  休業損害 二〇四万九三五三円

原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一六号証ないし甲第一九号証、原告本人尋問(第一回、第二回)の結果によれば、原告は、本件事故当時、第一生命保険に勤務し、夫の経営する銀河電子工業の仕事をし、ヘアーサロン満井でも理容師の技能を生かして稼働していたことが認められるところ、銀河電子工業の収入は、現実の労働に対応した対価とすることはできず、その収入は第一生命保険を除き、必ずしも明確、安定しているものとすることができないところであり、原告は、主婦としての稼働もあるから、その収入額は賃金センサス女子労働者企業規模計学歴計三五歳から三九歳平均年収額二七六万〇二〇〇円を基礎にするのが相当であり、また、乙第一号証の一ないし八一によれば、豊岡第一病院を退院した昭和六三年四月一二日までは全期間を、その後は前記傷害の内容、程度等からして通院日(一四九日)のみの休業を認めるのが相当であるから、これらにより原告の休業損害を算定し、二〇四万九三五三円とするのが相当と認められる。

7  逸失利益 五九万七四四五円

甲第一三号証、甲第一五号証の一、二、甲第三九号証、乙第一号証の一二ないし一五、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、本件事故で前記傷害を負い、治療を受けたが、自覚症状として背部痛、肩凝り、腰痛、両膝痛、右耳鳴りなどの後遺障害がのこり、他覚症状及び検査結果として頚椎四・五間で著名な後方凸湾曲を示し、頚椎四・五間の椎間板狭小化が見られ、腰椎五・仙骨一間に辷症が見られ、現在の症状は当分の間続くものと考えられる。

右によると、原告は、後遺障害で少なくともその労働能力の五パーセントを今後五年の間喪失したものとするのが相当と認められるから、前記年収額二七六万〇二〇〇円を基礎に、ライプニツツ方式、係数四・三二九で、その逸失利益の現価を求めると五九万七四四五円となる。

8  慰謝料

(一)  入通院慰謝料 一八〇万円

原告の負つた傷害の部位、内容、程度、入通院日数、その期間、原告の社会生活、家庭生活に及ぼした影響、原告の年令、性別、家族関係等諸事情を考慮し、一八〇万円が相当と認められる。

(二)  後遺障害 九〇万円

原告の後遺障害の内容、程度、年令、性別、職業、収入、資産、家族関係等諸事情を考慮し、九〇万円が相当と認められる。

9  以上損害額合計 八二六万六七五三円

三  過失相殺

甲第一号証ないし甲第三号証、甲第四号証の一ないし一六、甲第五号証、甲第六号証、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、本件事故現場である本件交差点は、原告からの見通しが不良で、上り坂の頂上に位置する状況にあったから、原告においても徐行するなどして他の車両の動静に注意すべきところ、これを欠いた落度があるから、一五パーセントを過失相殺するのが相当である。

過失相殺後損害額合計 七〇二万六七四〇円

四  填補 四六七万七七六〇円

当事者間に争いはない。

填補額控除後損害額合計 二三四万八九八〇円

五  弁護士費用 二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、原告代理人に本件訴訟を委任し、弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の経緯、認容額等諸事情から本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては二〇万円を認めるのが相当である。

六  よつて、原告の請求は、被告らに対し、各自二五四万八九八〇円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六二年一二月一一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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